女が男を見切る時




明日から3連休というある月の金曜日、時計はちょうど午後9時を指そうとしていました。


連休に予定されているお見合いの最終確認を済ませ、パソコンの電源を落とそうと、マウスに手を伸ばそうとし瞬間、携帯が鳴りました。

声の主はちょうど1ヶ月前に、結婚が決まったU子さん(26歳)。

「橋本さん、遅くにすみません。今、少しお話ししても大丈夫ですか?」

いつもの彼女より、低く落ち着いた感じ声から、何か重要なことを決断した後の、

吹っ切れた空気が伝わってきました。

えっ、これは・・・ひょっとすると「お断り」の報告かも?

一瞬頭に浮かんだのが「まさか」ではなく、「ひょっとすると」だったのは、この半月ほどの間に、その「芽」となる伏線があったからですが、その予感は的中しました。

U子さんが、お相手のKさん(29歳)と出会ったのは、初夏のまぶしい日差しが降り注ぐ、6月最初の日曜日。


26歳と29歳。私たちがお手伝いする組み合わせとしては、数少ない、若者同士のお見合いです。

日頃から聴いている音楽や、目前に控えたワールドカップの話で盛り上がったこともあり、その日を境に二人の交際が始まりました。

お相手のKさんがお酒好きということもあって、デートはもっぱら夜から居酒屋で食事するというパターン。


彼女にしてみれば、雑誌で紹介されているようなおしゃれなカフェで人気のスィーツを食べたり、京都や神戸にドライブに連れて行ってもらったり、

たまには、そんな定番的なデートもしたかったようですが、それを口にすることは控えていました。

そうしながらも交際は進み、お見合いから3ヶ月が過ぎた9月のはじめ、U子さんは、意を決したKさんからプロポーズをされました。


「よろしくお願いします」とその場で即答。


めでたく「ご成婚」となったわけですが・・・。

しかし、皮肉にも、それから二人の間に微妙な空気が流れ始めます。

というのも、今の時代にしては、まだ29歳と若いKさんにとって、プロポーズという大仕事をやってのけたという安堵感からなのか、その後の結婚に向けた行動をなかなかスタートさせようとはしませんでした。


通常、結婚の約束をしてから2週間以内には、双方が両家への挨拶に伺うことを、私たち仲人は会員さんに対し、「マナー」として薦めています。

しかし、どうやらKさんが所属する相談所からは、そのようなアドバイスもされていないようでしたので、女性側の仲人として同相談所には、Kさんの主導で、両家紹介や結納の段取りなどを進めてもらうようお願いをしました。

ですが・・・それから1週間が過ぎても、それらしき動きは無いようでした。

U子さんの話では、Kさんは何かと「仕事が忙しい」といっては、それらを先延ばしにしようとするようで、そのくせ、週に2回は必ず彼女を居酒屋に誘うのだそうです。

めでたく「ご成婚」となっても、結婚式に進むまでの過程で、当人たちやその家族の間で何らかの「すれ違い」が起こり、それが火種となり、

やがて、婚約解消にまでに発展してしまうことは、ままあります。


U子さんからその様子を聞いた時、「ひょっとしたら今回のご縁は、破談になるかも・・・」という良からぬ思いが、私の頭をよぎりました。

そして、それは現実になりました。



さて、ここから本題です。


このお二人のような男女にとっての「結婚」は、人生の課題であり、達成すべき目標であるということでは共通しています。

しかし、実際、結婚の約束をしてからの両家へのあいさつから結納、結婚式場、招待客の選定、衣装決め、また新居探しなど、結婚までの、ある意味、“実務的な準備”に関しては、男女の認識にかなりの違いがあります。


多くの男性にとってのそれは「仕事」です。

それも、どちらかというと面倒な部類の仕事です。なぜ面倒かというと、「本業の仕事」のように努力して成果を出したとしても“評価されない仕事”だからです。

男性は往々にして、このような類の仕事に対してはモチベーションを保つことは難しいので、かなり意識しないと、それを積極的に片付けようという気持ちには、なかなかなれないのです。

このような理由から、ここでのKさんの振る舞いというのは、その「男性らしさ」がそのまま出ていると言えます。

逆に言うと、男にとっての「本業の仕事」は、それほど生活の中で大きなウエートを占めている、

いわば「使命」であることの証明でもあるのですが・・・。

かたや、女性にとってのこの“実務的な準備”は、それも含めて「結婚する」という、人生最大級のイベントに盛り込まれた「コース」とか「メニュー」のようなものと言えば、伝わるでしょうか?

つまり、そのような各種の準備をこなしていくことで、「結婚する」ことへの実感と自覚を強めていく。

またその準備というのは、高級懐石の、小鉢に盛り付けられた、上質な一品、一品の料理に

舌鼓を打つように、感じ、楽しむ。


それが女性にとっての「結婚する」こと。なのでしょう。

「面倒な仕事」と「高級懐石」。


この絶対に交わらない決定的な世界観の違いが、男と女は同じ人間ありながら、違う生物であるとことを示しています。

女性からしてみれば、人生でこれほど意味のある“実務的な準備”とその時間を自分のパートナーとなる男性は、軽んじるどころか、疎ましくさえ思っている。

それが、ありありと伝わってきた時、「これからの人生、この人と一緒にやっていけるのか?」そんな不信感が芽生える。

これがマリッジブルーとなり、最悪の場合、この二人のような結末になる・・・。ということもあるのです。


残念なのは、そこにお互いの「悪気」はなく、それぞれの男性らしさと女性らしさがあぶり出された、その結果、そうなったということ。


これまで、このような場面に何十回と出くわしてきました。

時に二人の関係を修復したり、また破談の処理をしたり、その度につくづく思います。

これほどまでの「違い」を人間の男と女に組み込んだ、神様の巧妙さを。