破れ鍋にとじ蓋(われなべにとじぶた)




一部分が割れているなど不具合がある鍋にも

それに合う蓋(ふた)がある。


縁結びを仕事にしている私は

この「ことわざ」が好きです。


これの意味するところは、どんな人にも、

その人にふさわしい伴侶がいるということです。


先日、この「破れ鍋に綴じ蓋」を

正に地で行く夫婦が誕生しました。


夫のSさん32歳、妻のN子さんは36歳、

私たちのような婚活業が介する、

このお見合い市場では

数少ない姉さん女房のカップルです。


福祉系の専門学校を卒業して

介護職に就いていたSさんが、

あかね屋に入会されたのは4年前でしたので、

彼はあの時はまだ28歳。


“若さゆえ”ではありますが、

どこかオドオドした感じで、

言葉もたどたどしく、どう見ても女性を

エスコートするのは難しいタイプというのが

初対面の印象でした。


とはいえ、ルックスはやや童顔ではあるものの、

目鼻立ちは整っていて、イケメンの部類に入るSさん。


ちゃんとした写真を用意できれば、

それなりの「お見合い数」はこなせると

私は見立てていました。


ただ、コミュニケーションが苦手という

Sさんの課題は、懸念していたとおりで、

お見合いには至るものの、

交際に発展するお相手にはいませんでした。


彼のようにコミュニケーションが不得手な人のことを

「コミュ障」といったりするのだそうですね。


話がそれますが、

心療内科という医療分野が確立されていくにつれ、

今はその分野で「●●障害」という診断名が

数多く生まれているようです。


ただ、ちょっとだけ調べた限りでは、

ここで言う「障害」とは、その特徴が見られる人の、

なにかしらの機能や能力が劣っているのではなく、

その当人が「選ぶ」、「好む」ことにおいて、

「偏り」があるという見立てをしたほうが

正しい診断ができるそうです。


Sさんの場合も、もし、そうした医療機関で

診察を受けたとしたら、コミュニケーションに関して、

なにかしらの「偏り」が見られるという

診断がでるのかもしれません。


たとえば、細かいことですが、

Sさんがウチに電話をしてきたとき、

私が「あかね屋でございます」と出ているのに、

彼はあえて「あかね屋さんでしょうか?」と

必ず確認の一言入れてから「●●市のSと申します」と、


いつもその時が初めて電話したかのように、

かしこまった言い方をします。


また、1000円ほどの支払いでも、

振り込んでくれればいいものを

3000円の往復交通費をかけて

わざわざ事務所にもって来られます。


このようにSさんはその状況に応じ、

臨機応変な対応をすることが不得手なことを

強く自覚しているし、またそれに対応する教えを

ご両親からも受けてきたのでしょう。


だから、電話をかける時のように、

ぜったいに間違いのない受け答えや振る舞いをする。


Sさんにとっては何事も丁寧に、

確実にするということの表れだけど、

こうした彼の態度にお見合いをした女性のほとんどは

戸惑を感じたようです。


こうしてSさんは入会から約3年の間で

15名ほどの方と会いましたが、

本物のご縁があるお相手とは会えていませんでした。


それでも「これだけお見合いができているのだから、

Sさんの婚活は前進している。


そのうち、あなたのいいところを

わかってくれる相手が必ず現れるはず。

だからがんばりましょう」


そう言っては、彼の意欲が萎えないよう、

私はSさんを励まし続けました。


そんなSさんに今年の春、一人の女性から

お見合いの申し込みがありました。


Sさんより4歳年上ですが、なかなかの美人。

それがN子さんでした。


大手企業に10数年勤務されているので、

年収も相当なもの。


業種としては低いとされる介護職のSさんのそれとは

結構な開きがあります。


お見合い当日の夕方、早くもN子さん側の相談所から

交際希望という連絡が入りました。


Sさん、入会から4年近くを要して、

やっと交際に至るお相手に巡り会えたのです。


こういうご縁をまとめることこそ、

仲人としての醍醐味。


2人の関係がなんとか良い方向に進んでもらうことを

この時ばかりは、いつもの数倍もの念を込めて祈りました。


その祈りが通じたかどうかは定かではありませんが、

その日から5ヶ月経ったお盆前の週末、

2人は成婚の報告をしにあかね屋を訪ねてくれました。


その姿は、しっかり者のお姉さんが、

少し幼さが残る弟を引率してきたようで、

その様子はとても微笑ましいものでした。


私はSさんとの4年間の関わりをとおして、

彼から感じてきたことをN子さんにお話ししました。


「Sさんは不器用なところが端々であるけれど、

そういう自分をわきまえているからこそ、

どんなことでも丁寧にきちんとする。


そういうところが人として、

とても信頼できるし好感がもてる。


Sさんは遅咲きの男性。

しばらくはN子さんが彼を育てるつもりで

リードしてあげて欲しい」と。


N子さんは私の話を最後まで聞き終えたところで、

一つ息を吐き、次のように言いました。


「私がSさんに思っていたとおりのことを

橋本さんから聞けて安心しました。


大事なテストの答え合わせしたら

それが100点だったみたいに嬉しいです。


これで何の迷いもなくこの人と結婚できます」


自身の思いを「答え合わせ」と表現した

N子さんの聡明さにお姉さんというより、

お母さんくらいの器の大きさを感じました。


「破れ鍋にとじ蓋」

どんな人にも、その人にふさわしい伴侶がいる。


この教えを絶対に忘れることなく、

縁結びに精進しようと改めて気を引き締めた次第です。

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